葛畑(土)人形       

葛畑(土)人形 (かづらはた)
 種類:土人形
 制作地:兵庫県養父市葛畑 (旧養父(やぶ)郡関宮町葛畑)
 現制作者:廃絶
 

       
初代  前田三郎ヱ門(友助)    
二代 前田友助(俊三郎)    
三代 前田太蔵    
四代 前田俊夫    −1988    −昭和63年

  初代の表記については「三郎衛門」もあり。

 前田家では製糸業や瓦の製造をおこなっていたが、江戸末期に初代が生糸の商いで京都に行った際に買い求めた伏見人形と京都で見聞した製作技法によって冬の副業として製作が始まったといわれる。二代目友助の代に材料となる土を求めて明治25年(1892)葛畑に移住した。戦後は他地域の土や丹波立杭焼の陶土を購入していたという。三代目太蔵の時代に最盛期を迎えた従業員十数名を抱えるほどとなった。現在残されている作品は四代目俊夫の作が多いが、俊夫は十分な技術伝承を受ける前に太蔵が亡くなり16歳で窯を継いだ。その後、兵役で召集された中断期間を挟み戦後に製作を再開した。昭和40年頃より自作の原型を元に新作を発表していった。しかし、1988年(昭和63年)、前田俊夫が亡くなり葛畑土人形は廃絶した。
 葛畑人形の招き猫として紹介されるのはほとんどが俊夫が制作したと思われる下の招き猫である。伏見系の虎柄の尻尾にはなっていない。それ以前と思われる古作の招き猫や座り猫は虎柄の尻尾をもっている。また稲畑人形の招き猫と似るので型の交換があったことがうかがえる。

葛畑の招き猫
大きな目が印象的 赤い首玉に金の鈴
右手挙げ 貯金玉の投入口か?
一目で葛畑とわかる独特の風貌を持った招き猫
平田(1996)によればサイズは16×9.5とある
また大きな目は金色とあるが黄色のようである

白猫で斑は入っていない
伏見系の特徴である虎柄の尻尾ではない
彩色も胡粉の下地以外は赤、黄、金とシンプル
ヒゲと眉毛は墨か銀かは不明
底には空気抜きの穴がある

後頭部にコインの投入口のような跡がある
貯金玉の型抜きだったのか
貯金玉として型を作ったのかは不明
基本的には上の白猫と同じ
基本的な彩色も黒猫である以外はほぼ同じ
ヒゲと眉毛は金あるいは銀か?
保存してあった画像の中に
三毛猫も存在した
彩色が異なるだけでつくりは同じ
上の3点の招き猫は画像の使用許可を得ていません
ご連絡いただければ正式に許可申請をいたします


 平田(1996)には型の異なる招き猫や座り猫が掲載されている。特に255の招き猫は稲畑の作品とひじょうに似ているので型の交換があった可能性がある。座り猫も掲載されているが255以外の葛畑土人形の猫は見たことがない。葛畑の猫といえば255の招き猫が紹介されている。

葛畑人形255−257 平田(1996)より        ※251−254は稲畑人形
255は稲畑人形(251)とひじょうに似る
交流があったのか?
257は伏見タイプの座り猫でおそらく伏見の型を使ったと思われる
256は一見して葛畑とわかる独特の風貌をした招き猫で前田俊夫の創作と思われる


葛畑人形?  
狐のようなような細い目のひじょうに特徴的な面相の香箱座りの猫
初めて見るが、藤枝郷土博物館の企画展「千客万来!招き猫」(2000)の
しおりによれば葛畑人形とある
サイズも同じである
※上記2枚は掲載許可は取っていません 藤枝郷土博物館より



参考資料
立牛 高さ131mm×横67mm×奥行202mm
穴の部分は貼り合わせ作業用か? 雄型では腹の下が台のようになっている
牛乗りねずみ 高さ66mm×横88mm×奥行161mm
上は兵庫の土人形(1993)では「立牛」と題がついており、
雄型も掲載されている
何かの民話を題材としているのだろうか?
1972年(昭和42年)の表示があるが
掲載されている作品の制作年か型をおこした年かは不明
足の部分が割れているように見えるのは
二枚型を合わせたときにできる空間で前足部分にもある
腹の下にある型の台状の形状がわかる
葛畑人形には底のあるものとないものがある
この立牛はその中間的なもののようである

下は題は不明であるが牛の背中にねずみが乗っているので、
干支の順番争いを描いたものではないかと思われる
いずれも前田俊夫による創作
 
こちらは通常の空気穴のある底面  
葛畑人形の型
左 馬の雌型

下 立牛の雄型

雄型雌型から足の長い人形の
つくりがわかる

いずれも「兵庫の土人形(1993)より
発行の「たつの市立歴史文化資料館」
所蔵の「養父市教育委員会歴史文化財課」の
許可を得て掲載
表示されている年号についても問い合わせたが不明とのこと


  「養父市立コミュニティーセンター葛畑人形館」では四代目前田俊夫の遺品や制作工程資料があるようだが、常時開館しているわけではないようで見学は要予約とある
     兵庫県養父市葛畑字庄ノ田1367


    但馬の百科事典「葛畑土人形」 公益財団法人たんしん地域振興基金



参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 西の部(武井武雄、1930 地平社書房)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)
郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド3(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
日本の土人形(俵有作、1978 文化出版局)
全国郷土人形図鑑(足立孔、1982 光芸出版)
日本の郷土玩具(薗部澄・阪本一也、1972 毎日新聞社)
日本郷土玩具事典(西沢笛畝、1964 岩崎美術社)
兵庫の土人形(龍野市教育委員会、1993 龍野市立歴史文化資料館) ※合併後 龍野市→たつの市
郷土人形図譜第9号稲畑人形 (1998 日本郷土人形研究会)
藤枝郷土博物館の企画展「千客万来!招き猫」しおり(2000 藤枝郷土博物館)