小坂土人形      

小坂土人形
 種類:土人形
 制作地:秋田県鹿角(かづの)郡小坂町(現在は鹿角郡は小坂町の一町のみ)
 現制作者:廃絶
 
 制作地であった鹿角郡は秋田県の北東に位置し青森県や岩手県と接する地域になる。市町村合併により鹿角郡は小坂町の一町のみとなっている。
 かつては鉱山の町として知られ住民の多くが鉱山に関係した職に就いていた。
 初代に関しては小坂鉱山で働いていた煉瓦工で、この鉱山に働きに来ていた花巻人形作者と親しくなり花巻に技能習得に行ったという説があるがはっきりはしない。秋田大百科事典(1981)では花巻出身ということになっている。石井(1976)によれば、はっきりした記録が残っていないものの鉱山に働きに来ていて知り合ったのは花巻人形の苗代沢家の職人ではないかとのことである。その後、初代が花巻で人形制作の技術を学び、花巻の型を持ち込んで制作を始めたという。小坂土人形は花巻人形の型が主であるが、少数であるが一部相良人形などや自家製の型が見られるという。

 二代目三蔵は瓦や七輪の職人として働いていたが十和田銀山が閉山のため、明治初年に瀬田石に転居して小真木鉱山で働きながら土人形制作を始めた。三代目陶造は明治17年に誕生していて土人形づくりを手伝ったというが陶造9歳の時に三蔵が亡くなり土人形つくりはほぼ途絶えた状態となった。陶造は昭和3年になり小坂町荒川に転居して残されていた型で制作を再開した。その後も制作を続けたが、1972年(昭和47年)に交通事故に遭い制作を断念するにいたり、1976年(昭和51年)菊沢陶造が亡くなり小坂土人形は廃絶した。陶造の子の菊沢陶一や親戚の木村光雄に制作を伝授したというが制作はされなかった。
 なお、「鹿角の土人形」(2019)では初代と二代目三蔵が瀬田石で制作した土人形を「瀬田石土人形」、陶造が荒川に移転して制作した土人形を「小坂土人形」と分けているがここでは従来の表記に従い一括して「小坂土人形」として扱う。

       
初代 平賀正之丈 
(音之丞 )
 
二代 菊沢(平賀)三蔵     −1893 −明治26年 
三代 菊沢陶造   1884−1976   明治17年−昭和51年
  菊沢陶一(子)・木村光雄(親戚) に制作を伝授するがは制作せず 

 初代には平賀正之丈の表記が多いが音之丞の名前も見受けられる。同一人物かは不明とのことである。
 二代目三蔵は菊沢家に養子に入ったため菊沢姓となった。


 小坂土人形は彩色にエナメル塗料を使い、底にベニヤ板を張って補強しているのが特徴である。この板を張るのは三代目陶造の考案であるという。またすべてではないが、多くは背面が黒塗りにされている。座り猫の背面は黒塗りとはなっていない。


小坂土人形「天神」
背面が黒塗りになっている

おもちゃ箱(日本土鈴館)より


小坂土人形の猫
 現在確認されている小坂土人形の猫は1種類だけですべて同じ型のようである。招き猫は確認されていない。花巻人形の型ということで調べてみたが詳細は不明である。ただ小坂土人形の面相がかなり特徴的なので、優しい顔つきにすると花巻人形の座り猫に似てくる。
 型は異なるが現在所蔵している古い花巻人形の座り猫に雰囲気は似ている(別型)し、花巻系の附馬牛人形の猫にも類似したものが見られる。
 「鹿角の土人形」(2019)に掲載されている猫は底がベニヤ板ではなく、「破れているが和紙が貼られていて胡粉が塗ってある」という記述がある。ベニヤ板を張り付ける際に和紙を使っているので、もしかしたらベニヤが剥がれたのか?それとも花巻人形に習って和紙を貼り付けたのかは底の画像がないので詳細は不明である。サイズは17.1×12.7とある。この猫の土人形は個人所有であるが、型は小坂町立資料館で所蔵している。(図録参照のこと)
 BEKOMOCHIさんのブログに掲載されている個人所有の猫は画像が5枚添付されており、底がベニヤ板になっているのがわかる。猫以外に3種類の人形が掲載しれており、その画像からもベニヤ板を和紙で貼り付けている様子がよくわかる。比較的大きなカラー画像であるので土人形の形状や彩色の様子を知ることができる。 サイズは高さ17.8cm 幅13.5cmと記されている。ぜひリンク先のカラー画像で見ていただきたい。

小坂土人形の座り猫
残念ながら手元に小坂土人形の現物はない
左は平田(1999)に掲載されている座り猫である
高さ18cm×横13cmとある
掲載されているのはモノクロ画像だが
「鹿角の土人形」(2019)と
BEKOMOCHIさんのブログで色は確認できる

額に黒い斑
耳、口、鼻の穴、爪は赤で描かれる
赤い首玉に白い点柄
緑・青・赤の前垂れ
目の下地には黄が入るときと入らないときがある
からだの斑は赤と黒
虎柄の尻尾
平田(1999)より

古い花巻人形の猫だが
型は異なるがおそらくこのような猫が
原型になっていると思われる


やはり花巻人形が元となっている
附馬牛人形だが
左端の座り猫は
面相などが似ているように見える
(定本附馬牛村史 より)

2019末から翌月にかけて
鹿角市歴史民俗資料館で開催された企画展

この図録が小坂土人形に関して詳しい
PDFファイルで入手できる


 なかなか現物を見るチャンスはないが、京都の郷土玩具平田(故平田嘉一の店)には展示があるはずなので機会があったら見せてもらおうと思っている。



   鹿角の土人形 鹿角市歴史民俗資料館調査資料2(PDFファイル) 企画展時展の図録
               リンク切れの時はねこれくと内のファイル
   小坂土人形 Kosaka Clay Doll BEKOMOCHIさんのブログ
   八橋人形の歴史と信仰 秋田県立博物館研究報告24号(高橋正、1999 秋田県立博物館) (PDFファイル)




参考文献
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
鹿角の土人形(鹿角市歴史民俗資料館調査資料2、2019 鹿角市歴史民俗資料館)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
土人形系統分類の研究:続車偶庵選集(石井丑之助、1976 車偶庵文庫)
日本船だま考(石井丑之助、1980 車偶庵文庫)
秋田大百科事典(秋田魁新報社、1981 秋田魁新報社)
地域展「伝説のさと鹿角」(秋田県立博物館報告、1978 秋田県立博物館)
小坂町史(小坂町町史編さん委員会、1975 小坂町)
全国郷土玩具ガイド1(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃのふるさと図鑑(平田嘉一、1985 東寺庵文庫)
日本の土人形(俵有作、1978 文化出版局)
全国郷土人形図鑑(足立孔、1982 光芸出版)
日本郷土玩具事典(西沢笛畝、1964 岩崎美術社)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
郷土人形図譜第12号 (日本郷土人形研究会、2001 日本郷土人形研究会)