久米土人形(宮尾土人形)
種類:土人形
制作地:岡山県久米郡久米町宮尾(旧)→津山市宮尾(新)
現制作者:廃絶
久米の土人形は文化年間に松岡村右衛門善隣により農業の副業として伏見人形をもとに創始されたとされる。全盛期の明治中期から後期にかけては9軒の人形師がいたが、昭和7年には本家の岸川亀次郎(四代目)と分家の岸川武士(五代目)の2軒だけとなってしまった。本家は亀次郎の死去により廃絶した。分家の武士(明治34〜昭和61)は戦前戦後と制作を続けた。号を翠雲と称し、昭和41年久米町の無形文化財に指定された。武士の死去後、一緒に制作をしていた妻の留代(大正元〜平成12)が六代目を継いで岸川工芸社として制作を続けた。しかし平成12年、留代の死去により200年続いた久米土人形は事実上廃絶した。
久米の土人形の代表作は泥天神で大看板(高さ120cm)を筆頭に11種類の大きさがあった。招き猫は1種類でそれ以外に猫(大・中・豆)がある。
岸川家は農業を営んでおり、土人形の制作は梅雨期から秋にかけて成形し、秋から春先にかけて彩色をおこなっていた。かつては彩色に泥絵の具を用いていたが、最近になってポスターカラーに切り替えられた。
松岡村右衛門(初代)・・・松岡健次郎(二代目)・・・今川佐十郎(三代目)・・・岸川亀次郎(四代目)・・・岸川武士(五代目)・・・岸川留代(六代目)
久米土人形の招き猫は昭和の初期の制作リストにも載っており、いろいろな書籍の制作品目には必ず載っているので久米の土人形の中でも有名な型だったのかもしれません。体とは不釣り合いな大きな鈴やギョロッとした目、グルッと巻いた尾など、一見して久米の招き猫とわかるものです。
私の手元にある久米の招き猫の裏には93年1月と購入したとき書き込んだ日付があります。東京日本橋にあった東急デパートの新春全国郷土玩具展で購入したものです。当時は一人で何個でも購入することができました。
最初に久米の土人形を現地まで買いに行ったのは記録を見ると1994年3月30日とありますから10年程前になります。この時は四国なども回ったため制作所までは行かず、岡山市内にある岡山県観光物産館を訪ねています。残念ながら招き猫の在庫はありませんでしたが、座り猫など何点か買い求めてきました。制作には娘さんも手伝っていることを物産館の方から伺い、久米の土人形の制作はまだ安泰を思わせる雰囲気でした。
2度目は1998か9年の3月に現地を訪問しています。このときは直接制作者の岸川留代さんを訪ねる予定でした。久米の宮尾は山間部の田園風景が広がるところでした。車でしばらく走ってみましたが、自宅の場所がわからず近くにあった集会所で尋ねてみました。しかし、「久米の土人形」ではピンとこなかったようで地元の人は首をひねっていました。しばらくして「あぁ、岸川さんのところの宮尾の人形ね」と合点がいったようです。地元では宮尾の土人形の方が通りがよいようです。しかし岸川留代さんは入院しているようで、その代わりに近くで働いている娘さん?(あるいは嫁いできたお嫁さん)を紹介していただき、話を伺うことができました。
その方のお話では留代さんは残念ながら前年の秋に足のけがで入院し、今もそのまま入院しているとのことでした。そして土人形を制作していた工房も片づけてしまったという話を聞き、久米の土人形もついに廃絶かという不安がよぎりました。
その後、地元の広報誌『広報久米』で岸川留代さんが2000年(平成12年)1月に87歳で亡くなられたことを確認しました。これをもって江戸末期から続いた久米の土人形は廃絶したものと思われます。
2004年には地域合併が合意され、津山市は2月28日、加茂町、阿波村、勝北町、久米町は津山市と平成17年2月28日に合併し、新生津山市としてスタートしました。久米の地名は残っていますが、だんだん土人形の存在は地元でも忘れられていくのかもしれません。
※郷土玩具職人ばなし(坂本一也1997)によれば、岸川留代さんを手伝っていたのは10kmほど離れた隣町に住む留代さんのお子さんだそうです。大型の天神は無理としても何とか久米の土人形が復活してくれればと思うのですが・・・。
久米土人形招き猫
横75mm×奥行70mm×高さ150mm
1種類のみ、彩色はいろいろなパターンがある。鈴は青か緑が一般的だが金色もある。胸に「福」や「福招」の文字や文字なしで黒い斑だけのものもある。鼻の彩色もまったく塗っていない場合や黒丸や少し長めに塗ってあるものまでいろいろある。招き猫の底は土だが大猫や座り猫のように面積が大きいときは紙が貼ってある。底面には「久米」と作者名が入っていることが多い。
かなり雰囲気が異なる招き猫 | 右の「岸川作」の次の一文字は不明 |
久米の猫たち
招き猫以外に手元にある久米の久米の猫たちは次のようなものを所有しています。座り猫も大猫もグルッと巻いた尾が特徴です。
小犬と小猫(高さ約5cm) | 座り猫(高さ約4cm) | 大猫(高さ約15cm) | 大猫の入っていた箱 |
参考文献
郷土玩具職人ばなし(坂本一也、1997 婦女界出版社)
岡山のおもちゃ 岡山文庫63(吉永義光、1975 日本文教出版)
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
郷土玩具1 紙(牧野玩太郎・福田年行編著、1971 読売新聞社)
日本郷土玩具 西の部(武井武雄、1930 地平社書房)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド3(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)