小幡人形(小幡でこ)         

小幡人形(小幡でこ)
 種類:土人形
 制作地:滋賀県東近江市五箇荘小幡町(旧 神崎郡五箇荘町小幡)
 現制作者:細居源吾(九代目)・細居禎浩(十代目)

 当地で「小幡でこ」と呼ばれている小幡人形は初代安兵衛によって創始された。安兵衛は京都との間で飛脚をしていたが追い剥ぎなどの被害に直面していた。そこで当時人気のあった伏見人形の製法を学び人形師に転職した。当時は近江にも人形制作者も何軒かあったが、やがて後継者不足から小幡でこを制作するのは細居家のみとなってしまった。
 小幡人形の創始は古いが武井(1930)には紹介されていない。これは伏見人形の傍系というよりコピーとみられていたからとする見方もある。伏見人形から型抜きしたものの中には廃業してしまった窯元の型もかなりあるという。その反面、小幡独特の型も多く存在する。特に八代目細居文造は多くの型を創作した。細居文造は農業の傍ら土人形づくりをおこなっていたが、1970〜80年代あたりの書籍には「跡継ぎがなく・・・」とある。しかし会社勤めであった細居源吾があとを継ぎ小幡人形はその歴史を繋ぐことができた。現在は造園業を営んでいる源悟の子の細居禎浩が十代目に向けて修業しているという。

 小幡人形は伏見人形を原型としているが、彩色に原色を用いているのが特徴であるが、人形の表情は時代や作者によって変化している。
 伏見人形を元にしているので多くの型があるが、動物をモチーフにした作品がひじょうに多くある。動物そのものだけでなく、擬人化された人形も多い。招き猫に関してはどの程度の種類があるのかは不明である。おもちゃ通信(200号)には高さ30cmの子付き招き猫が掲載されている。2006年の中野市での展示にあった招き猫大はそれに次ぐサイズではないかと思われる。

       
初代 安兵衛     −1743    −寛保3
二代 七之助     ?? 生没年不詳
三代 五左衛門     −1808    −文化5年
四代 源助     −1868    −慶応4年
五代 細居元右衛門     −1891    −明治24年
六代 細居文七郎     −1909    −明治42年
七代 細居源助 1879−1938 明治12年−昭和13年
八代 細居文造 1912−1989 明治45年−平成元年
九代  細居源悟 1939− 昭和14年−
十代 細居禎浩 1967− 昭和42年− 

   ※細居家のHPより編集  江戸時代は暦法が異なるため没年に誤差が生じる可能性がある

細居家の招き猫
すべて細居文造作


招き猫中  
豪華な首玉と前垂れに金の鈴 耳は裏側だけ黒
右手挙げ 尻尾はない
全体が薄青緑に塗られている
顔つきは伏見人形に類似している

目は黄色に黒い瞳


高さ141mm×横68mm×奥行108mm
裏書きのようなものは反故紙の墨書き


招き猫小  
豪華な首玉に鈴が付き、前垂れはない 白(右)は左手挙げ
薄青緑(左)は右手挙げ やはり尻尾はない

小型の招き猫
サイズやデザインはほぼ同じだが
挙げている手が異なる
細居文蔵が制作した招き猫には
薄青緑色に彩色された猫が多数ある
不思議な色彩だが理由は不明である


高さ100mm×横48mm×奥行52mm


高さ101mm×横50mm×奥行52mm

サイズの違いは誤差の範囲と思われる 


招き猫(鞠乗り猫)  
(左)八代目細居文造作   (右)九代目細居源悟作 
細居文蔵が制作した鞠乗り猫の鞠の上に座る猫は片手で招くタイプと両手で招きタイプがあった
どちらも手は身体(頭)に付いていた
細居源吾の代になると最初は挙げている手が身体に付いていたが、
やがてバンザイをしたように身体から離れるようになった
このあたりどちらがいいかは各自の好みによるだろう
黒斑の入り方も微妙に違う
 その他、猫ものとしては三味線猫(猫の浄瑠璃)や行灯猫などもある
細居源吾作
両手挙げだがバンザイスタイル 耳は全体が黒で耳の中がピンクと赤で描かれる
鞠に金砂が入る 耳の黒斑は前面におよぶ
両手挙げ
目はオレンジのぼかしに黒い瞳
身体のラインとしてオレンジのぼかしが入る
耳の黒い斑は前方まである
赤い首玉に白い水玉模様
黄色の鞠には麻の葉模様?(枚数が多い)


高さ150mm×横138mm×奥行83mm

なお、細居源吾も初期のころは
文造作と同じように両手が身体に付いていた(下右)

また細居文造は片手招きの作品も残している(下左)

いずれも平田(1996)より
左手挙げ(文造作) 両手挙げ(源悟作)初期タイプか?
細居文造作
控えめに両手を挙げる 背中尻尾につながる黒い斑
耳の後ろの黒(茶)の斑は後ろのみ 背面は黒い斑と首玉以外彩色はない
鞠の上に乗る猫は茶色の斑
両手を控えめに挙げている
目は黄色に黒い瞳
赤い首玉に白の波模様



高さ146mm×横136mm×奥行83mm


猫抱き娘1
大猫を抱いている  
金の鈴を付ける大猫 裏面の下半分は彩色なし
底は平坦で穴は焼いたときの空気穴か

捜索中
高さ   mm×横   mm×奥行   mm
猫が大きいので顔は招き猫と同じ彩色
抱いている娘の手は彩色なし
猫抱き娘2
猫は小さめ
黒斑の仔猫?を抱く これも裏面下半分の彩色なし
抱いている猫は小さい

底は内側に窪んでいる

高さ108mm×横95mm×奥行60mm
猫が小さいので彩色も簡略化されている
ピンク系の着物が鮮やか
これも娘の手の彩色なし



                                   


 手元に所有している小幡人形はほとんどが動物ものである。なかなか小幡人形の全体像を紹介するのが難しい。そこで思い出したのがかつて中野市の土人形資料館で開催された小幡人形の展示。画像を探したところ2006年に開催されていた。これはこれは東京在住の蒐集家鹿野市夫氏の寄贈品の受贈記念展示であった。

小幡人形展(2006)   
2006年(平成18年)中野市にある土人形資料館で
蒐集家の鹿野市夫より資料館に寄贈された
「鹿野コレクション」の受贈を記念して開催された
ちょうどひな市にも重なっていたので見学した

細居家の作品の一部ではあるが
全体像を把握することができる

資料館は高田館長の時代であった
昭和47年土人形製作中の細居文造
寄贈された人形はこのころのものが多い
昭和44年(1969) 昭和45年(1970)
小幡人形の猫たち

 
招き猫小 招き猫中と大
 
招き猫中 三味線猫(猫の浄瑠璃?)、猫と鼠など
小幡人形の招き猫は大中小と3種類あるようだ
いずれも薄青緑に塗られている
座り猫は大きい「三毛猫」と「猫小」が展示してあった
伏見系の猫に見られるように尻尾は虎柄になっている
なぜか猫小の尻尾は虎柄になっていない
猫抱き娘2と同じ型 着物や羽織の柄が異なる  
犬(狆)もいろいろなサイズがある
また種類も豊富だ
トラも種類が多い
渦を巻いた独特の縞柄になっている
牛も地味だが種類は多い
やはり干支ものは需要があるのか
いろいろなタイプがある
寝牛から牛車(御所車)、俵牛など種類が豊富
俵牛は後に年賀切手の素材となった

このあたりはすべて干支がらみの作品 ウサギも月乗りウサギなど有名な型が多い
伏見もそうだが小幡人形にはいわゆる「笑いもの」、
小幡では「松竹もの」が数多くある

子孫繁栄や五穀豊穣を願っての作品である
「松竹もの」の中に右奥に「座りおぼこ」があるが
これはもしかして「裏付き」・・・
後ろの狐はペアで「夫婦狐」となっている
神輿も有名な作品だが
何か仕掛けがあるのか?
各種「松竹もの」
奥の「潮汲み娘」や右手前の「松竹や」も有名な型
「潮汲み娘」 
細居文造(1986)復刻より

この画集は文造が出征前に描き残したものを
戦後の昭和23年になって出版された
昭和61年(1986)に
支援団体の小幡人形保存会によって復刻された
我が家所蔵する
ものから2点
人参ウサギ 親子虎  
小幡人形は何点か所蔵しているほとんどが干支がらみで購入したものだ
毎年交換して1年間飾っているので干支毎に保管している
適当な時期に出して撮影してみたい 
 


 小幡人形は昭和59年(1984)、平成4年(1992)、令和3年(2021)と3回年賀切手として採用されている。

小幡人形の年賀切手     
     
  昭和59年(1984)
 「小槌鼠」

切手取得中 平成4年(1992)
「桃持ち猿」
  細居文造(1986)復刻より  
切手取得中 令和3年(2021)
「俵牛」
画は川崎巨泉の俵牛 







  郷土人形 小幡人形(おばたでこ) 公式HP
  伝統を引き継ぎ30余年 今も変わらず「小幡人形」 滋賀ガイド(2020.12.21)
  東近江スマイル観光(小幡人形)  
  滋賀の伝統工芸品 小幡人形  滋賀県商工観光労働部中小企業支援課  



                                   


参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 西の部(武井武雄、1930 地平社書房)
全国郷土玩具ガイド3(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
小幡土偶(細居文造、1986 小幡人形保存会凸(でこ))覆刻版
日本の土人形(俵有作、1978 文化出版局)
全国郷土人形図鑑(足立孔、1982 光芸出版)
日本の郷土玩具(薗部澄・阪本一也、1972 毎日新聞社)
日本郷土玩具事典(西沢笛畝、1964 岩崎美術社)
郷土玩具3 土(牧野玩太郎、1972 読売新聞社)
土の鈴(石山邦子、1994 婦女界出版社)