暫定版
起土人形(冨田土人形)
種類:土人形
制作地:愛知県一宮市(旧尾西市冨田中町)
現制作者:中島一子
起人形が制作されている旧富田村の集落は明治22年(1889)に中島郡大徳村に編入され、明治39年(1906)には起町に編入された。さらに昭和30年(1955)の市制施行により尾西市に編入された。平成17年(2005)尾西市は一宮市に編入された。
初代 | 中島佐右衛門 | 1811?−1886 | 文化8年?−明治19年 |
二代 | 中島佐兵衛 | 1848?−1903 | 弘化5年?−明治36年 |
三代 | 中島佐十郎 | 1880?−1968 | 明治13年?−昭和43年 |
四代 | 中島佐太郎 | 1899?−1949 | 明治32年?−昭和24年 |
五代 | 中島一夫 | 1925−2004 | 大正14年−平成16年 |
六代 | 中島一子(一夫の妻) | 1926− | 大正15年− |
※初代から四代目までの誕生年は没年から年齢逆算しているので1年程度の誤差あるため?としている
・ 佐十郎の弟でで分家した中島家でも制作していた
中島佐吉(昭和41年没)・・・佐々夫(大正8年生 昭和35年まで制作中止)
起人形は富田人形とも呼ばれ、天保年間に中島家13代目の中島佐右衛門によって造り始められた。佐右衛門は名古屋の人形屋で修行をして、現在の地に来て作品を作り始めたといわれている。中島家では土人形の他に岐阜市にある大日山美江寺(観音)でおこなわれていた美江寺祭りの際に境内で売られていた蚕鈴の制作もおこなっていた。当初は美江寺の僧侶が制作していたようだが、後に中島家が制作するようになった。この蚕鈴の土鈴は宝珠鈴、釜鈴、俵鈴、巾着型、わら鈴など種類も多く、この地方で盛んであった養蚕の蚕室に吊るして天敵のネズミ除けと養蚕繁盛の祈願として信仰されてきた。また五穀豊穣や商売繁盛の縁起物としても求められていた。蚕鈴の最盛期は戦前であった。やがて養蚕の衰退と共に平成20年(2008)まではお蚕祭がおこなわれていたようであるが、残念ながら現在は岐阜市の美江寺での祭はおこなわれていない。
戦後多くの起人形を制作した五代目中島一夫は蚕鈴と干支を組み合わせた土鈴や干支にちなむ土鈴などを数多く制作した。土鈴以外にも節句ものや歌舞伎ものなどの人形も多く制作した。昭和30年に近隣の火災で古い型が多く割れてしまったが、よく使う方は損失を免れ、割れた型も復元されていった。
戦後多くの作品を作り続けた中島一夫が平成16年(2004)8月に亡くなり、現在は一夫の妻の中島一子が小型の作品を少量制作している。
起人形は名古屋や犬山が元になっているといわれるが、彩色など一目して起人形とわかる特徴のある土人形である。そのいちばんの特徴は雲母を混ぜた胡粉にある。これは招き猫に限らず節句ものや歌舞伎ものなどの人形も同様である。光沢のある下地に鮮やかな色の彩色で絵付けをおこなっている。
招き猫大 | |
鋭く大きな目 | 豪華な首玉と鈴 |
右手挙げ | 黒く太い尻尾 |
二尺ものなど三河系では かなり大きな招き猫があるが、 起の招き猫は最大どの程度の大きさの猫が あるのか不明である 以前ネットオークションに 出品されていた大型の猫は 高さが30.4cm、重さ1850gと説明にあった 現在所有しているこの大猫のサイズは 高さ370mm×横265mm×奥行260mmで 重さは3.8kgある それでも数十センチある他の三河系の招き猫に 比較すると小さいが十分に存在感がある |
|
底はない | |
起人形の動物にお決まりの鼻の穴 瞳の二重構造がよくわかる |
赤に松竹梅の首玉も定番アイテム 鈴は宝珠? |
細身の黒招き猫 | |
視線がやや上向きの黒猫 | 左手挙げ |
毛並みが白で描かれている | 尻尾の付近の彩色は独特 |
やや上向き目線の左手挙げ黒猫 手足の先は白のソックスタイプ 体型は他の招き猫に比較してやや細身 赤い首玉に松竹梅の柄 首玉には鈴が3個付く 黄色の目に黒の瞳 耳の中、口、爪は赤で描かれる 鼻は定番のベージュ 高さ223mm×横107mm×奥行112mm |
|
底は閉じている | |
キリッとしまった顔でしっかり招く 「なかむらさんちのホームページ」(下記参照)に 掲載されている2005年に入手した白猫は 同じ型と思われる 起の猫は黄色い目に 瞳は黒で周囲に薄く縁取りがあるのが特徴である 注文者の求めに応じて金色も制作された |
|
豪華な首玉と鈴が付く |
招き猫小 | |
左 高さ127mm×横73mm×奥行68mm 右 高さ125mm×横71mm×奥行64mm 右は土鈴になっている |
|
基本的な作りと彩色は同じ 赤い首玉に松竹梅などの柄と 鈴が描かれる |
|
右手挙げ 黒い斑のまわりに薄い縁取り 尻尾も同様の彩色 |
|
毛柄は薄墨で描かれる 土鈴には水引の紐が付く |
|
当然ながら土鈴には鈴穴が開く | |
これ以外にも常滑タイプの小判抱き招き猫も制作されていた。他に座り猫もある。
猫土鈴 | |
基本的な彩色は招き猫と同様である | 黒くて長い尻尾 |
やや上向き加減の顔 | 招き猫同様の豪華な首玉 |
猫がお尻トントンでよくやるポーズである しかし「鼠押さえ猫土鈴」(下)が 元になっているのではないかと思われる そのように見るとこのポーズの意味合いも異なってくる 1997年の中野ひな市で購入した際に ご本人に銘を入れていただいた 「起土鈴 ●中島作」で●は読めないが「老}か? 高さ78mm×横115mm×奥行52mm |
|
銘は購入時に書いていただいた | おもちゃ通信200号(1996)より |
裃招き猫 | |
大きな目が印象的な猫助 | 左手挙げ |
裃や着物に福の紋 | 背面の彩色はない |
裃を着た招き猫、いわゆる福助ならぬ猫助である 裃を着た干支土鈴があるので 十二支に入っていない猫はその派生タイプであろう 土鈴にはなっていない 干支ではないので裃や着物の紋も「福」となっている 高さ167mm×横142mm×奥行100mm |
|
底は閉じている | |
裃干支土鈴(辰) | |
動物が辰である以外猫と同じデザイン | 背面は後頭部以外彩色されていない |
干支土鈴の参考として今年(2024)の辰を掲載 サイズも何種類かある 高さ156mm×横141mm×奥行102mm |
|
裃干支土鈴(うさぎ) | |
こちらも裃干支土鈴ではあるがかなり大きい これもまとめ買いした中にあったものである ただし招いてはいな 両手をついているので袴は見えない 着物の紋に「丁卯(ひのとう)」とあるので 1987年(昭和62年)に向けて制作されたもののようだ 土鈴としてはかなり大きい このように不自然なくらい頭の大きな干支土鈴もある 高さ280mm×横160mm×奥行120mm |
冒頭に書いたように土鈴は多種多様にわたっている。古くから釜形、宝珠型、俵型、小槌型、巾着型、福神などいろいろなタイプは制作されている。これにサイズ違いや干支が組み合わさりさらに種類が多くなっている。それほど多くを所有しているわけではないが、それでもここで紹介している土鈴はごく一部である。古くはこの地方で盛んだった養蚕のネズミ除けだったが、現在は五穀豊穣や商売繁盛の縁起物となっている。
大型の土鈴は50cm程とひと抱えもあるという。
参考 土鈴 | |
小型の釜形土鈴 φ88mm (左) φ56mm (右) |
|
大きさ比較は500円硬貨 | |
標準的な宝珠土鈴 高さ138mm×横145mm×奥行75mm |
|
火焔部分が分離している標準的な宝珠土鈴 | |
小型の宝珠型 火焔部分が一体化している 高さ148mm×横142mm×奥行87mm |
|
宝珠型 大きめ | |
少し小さめの宝珠型 火焔部分が分離している 高さ108mm×横111mm×奥行67mm |
|
宝珠型 小さめ | |
俵土鈴と干支を組み合わせたもの 高さ113mm×横80mm×奥行63mm |
|
干支俵土鈴 | |
絵馬と土鈴を組み合わせたたもの 高さ70mm×横74mm×奥行30mm |
|
絵馬土鈴(辰) | |
薄い釜形の巾着土鈴 干支のひつじが描かれる |
|
φ116mm | |
少し大きな釜型鈴もあったはずだがみつからない 吊り下げには紐や水引が使われている 金砂が振られている |
厄除け縁起の小型土鈴 | |||
|
|||
干支の縁起土鈴 | |||
|
|||
辰の縁起鈴 | |||
高さ30mm×横50mm×奥行30mm | 小さくても土鈴になっている | ||
ウサギの縁起鈴 | |||
左のウサギは訪問した時の頂き物( 高さ29mm×横28mm×奥行39mm) 販売するためではなく親しい人へ渡すために制作しているようだ ちなみに今年(2024)用に制作された辰 も上の辰と同じ型である 蚕鈴インスタグラムへ |
|||
擬人化された人形 | |
同じ人形で土鈴もある | 裏面は彩色なし |
起人形は動物を擬人化した作品も多い これはねずみの花嫁。昔話の「ねずみの嫁入り」を元にしたのか? 他にトリの高砂など擬人化土人形は多いようだがどのような作品が制作されたかは不明 背面は他の三河系と同じように彩色がない 高さ228mm×横123mm×奥行73mm |
|
招き猫以外にもこのような大ウサギ(招きウサギ)もある。
大ウサギ | |
大ウサギ | 左手で招いている |
ネットオークションに出品された頭まで28cm位、耳の先端まで35cm程の招き大ウサギ どう見ても招き猫を元にした人形と思われるが、目ははっきりと草食系の目をしている 掲載許可を取っていないのでご連絡いただければ正式に申請いたします |
1999年4月1日に中島さんのお宅を訪問して招き猫の制作を依頼した。記録によると招き猫大と中を注文していた。残念ながら中島一夫さんは体調を崩されあまり制作できなくなってしまったようである(下記 なかむらさんちのホームページ参照)。そして2004年に亡くなられて作品が届くことはなかった。
その後、某所で入手することとなったのが大型の招き猫である。
何となく起人形が好きなのである。なぜかはよくわからないが好きなのである。特に動物ものの土人形が好きなので動物を題材にした土人形が多い起人形が好きな要因かもしれない。以前ネットで土鈴がまとめて出品されていたのを落札した。その中の7割ほどが起であったので入札入手した。干支土鈴が多く、裃を着た干支土鈴や干支の宝珠土鈴も大部分がそのとき入手したものである。
ところで蚕鈴に干支はあっても猫はない。蚕鈴に猫の組み合わせはネズミ除けには最強だと思うのだが制作されたことはないのだろうか?コウモリもおもしろかったがこれも入手できずにいる。
1997年の中野ひな市でお見かけしたときに購入した猫土鈴に銘を入れていただいた(上の猫土鈴)。まだデジタル化以前だったのでフィルム撮影をしているが画像が見あたらない。出てきたら追加する予定。
謎の起人形? | |
「亀」 長寿の象徴の亀だが何に使うかは不明 裏に針金が出ていて引っ掛けられるようになっているので 何かの装飾用のパーツか? |
「爪」 これはさらに謎 「爪」と言っていたのははっきり覚えている 無彩色 |
なかむらさんちのホームページ「郷土玩具の部屋」の中に詳しい訪問記があります 招き猫の種類もわかる
上記の「起の土人形」へ直行
土鈴のこころ (7)蚕鈴
みやげもんコレクション256 美江寺の俵鈴 (BRUTUS マガジンハウス)
参考文献
郷土玩具職人ばなし (坂本一也、1997 婦女界出版社)
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
日本の郷土玩具(東日本編)(薗部澄・阪本一也、1972 毎日新聞社)
土の鈴(石井邦子、1994 婦女界出版社)