暫定版
相良人形
種類:土人形
制作地:山形県米沢市
現制作者:相良隆馬(8代目)
相良人形の創始は相良家四代目で藩の扶持方を勤めていた相良清右衛門厚忠であった。安政七年(1778)に花沢瀬戸焼量方、続いて瀬戸物焼方を藩より命ぜられた。その後いったん職から退いたが寛政3年(1791)に一時中断した成島村の瀬戸焼(成島窯)の再興のため再度焼方を命ぜられ、相馬より職人を呼び寄せ復興させた。そのとき職人が作る土人形に興味を持ち、寛政9年に無役になったのを期に人形作りを始めた。当初は知人に配る程度の制作であったがだんだん人形作りも製法が確立していき需要も出てきて冬の内職として定着していった。江戸末期に最盛期を迎え、その後も相良家に代々引き継がれていった。相良人形は当初は武士が作ったので「相良さま人形」や「花沢人形」の名で呼ばれていた。「相良人形」と呼ばれるようになったのは明治の中頃とのことである。人形作りは女性や子どもが内職として制作し主人は人形の目付だけおこなっていた。
太平洋戦争のころになると燃料や材料の入手が困難となり人形作りは中断してしまった。戦後しばらくは中断されたままで実質的に廃絶状態に陥った。昭和42年(1967)ころ清一の妹の子である山崎秀雄により相良人形の復興を目指し相良人形興芸社を立ち上げたが、型抜きこそ相良隆などがおこなったが彩色は画家がおこなったため相良人形とは異なる人形となってしまった。相良隆は郷土人形制作者や郷土人形研究家の指導や教えを受け相良人形の復興をめざし再興させた。昭和58年会社勤めを辞め人形制作専業となった。現在は八代目の相良隆馬に引き継がれている。
なお、六代目として紹介されることがある相良清(1905−1966)は人形制作をおこなわなかった(いくつか顔を描いたものはあったようだが)。
※扶持方(ふちかた):俸禄の事務をする役職
人形作り | |||
初代 | 相良清左衛門厚忠 | 1760−1835 | 宝暦10年−天保6年 |
二代 | 相良作右衛門直厚 | 1776−1855 | 安永5年−安政2年 |
三代 | 相良清左衛門厚正 | 1814−1882 | 文化11年−明治9年 |
四代 | 相良清左衛門 | 1840−1911 | 弘化2年−明治44年 |
五代 | 相良清一 | 1874−1945 | 明治7年−昭和20年 |
六代 | 相良チヱ | 1908−? | 明治41年− |
七代 | 相良隆 | 1933−? | 昭和8年− |
八代 | 相良隆馬 |
相良人形の招き猫 |
中央の猫は相良宅を訪問し購入したものだが長年の間にシミが出てしまった |
いずれも相良隆作 |
1990年代の招き猫 後年のものに比べて顔の描き方に違いがある |
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1990年代半ばの招き猫 | |||||
黄色の目に黒い瞳 | 黒い尻尾 | ||||
2箇所に黒い斑 | 左手挙げ | ||||
1990年代に相良さんの自宅を訪問して購入 後年のものに比べて 目が大きいなど面相に若干違いがある 首玉は紅花か? 高さ134mm×横68mm×奥行81mm |
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底面は閉じている | |||||
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もう少し新しい年代の招き猫 | |||
若干目が小さめ | |||
作りは基本的には変わっていない | |||
サイズは同じ 上の招き猫にはなかった 鼻の穴と鼻の下の筋が描かれている 下の顔に黒の斑が入った招き猫より 新しい作品 |
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底にお約束の銘が入る | |||
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一時期制作されたタイプ | |||
顔の右側に黒い斑 | それ以外の彩色は同じ | ||
基本的は作りは同じ | |||
柄違いでサイズは同じ 実際にはあり得ない瞳の中の針目がおもしろい |
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銘が入る | |||
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あまり見かけない黒猫の招き猫 | |
彩色は定番の色使い | 色が異なるだけで型は同じ |
見事な猫背 | 赤い首玉 |
相良人形の黒猫は他に見かけたことがない 既製で存在したのか注文で制作されたのかは 制作者・旧所有者共に 鬼籍に入ってしまったので不明 相良家に残されているのだろうか? ちなみに8代目の隆馬さんがつくる 「猫と蛸」には黒猫がある 彩色は他の猫とほぼ同じで 眉毛、爪は金、ヒゲは銀で描かれる 目は金の瞳の中に銀の瞳が入るダブル構造 尻尾の先に相良でよく使われた 桜の花が入るのが珍しい 色違い サイズは計測箇所によって若干異なる 高さ131mm×横67mm×奥行86mm |
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底面には銘が入る | |
金の瞳の中に銀の瞳が入る | 尻尾に桜の花 |
蛸と猫 | |
爪が見えている足は前足?後足? | 蛸に締め付けられる |
尻尾は黒でごく短い | 蛸を被っているようにも燃える |
猫抱き蛸 相良人形の中で人気の「猫抱き蛸」がある 「蛸が猫を抱く」のか「猫が蛸を抱く」のか それとも「猫が蛸を被る」のか 以前は見かけなかったが 型としては古くからあるようだ これはかつてあった相良人形の「熊抱き蛸」の 譜系ではないかと思っている なお蛸(多幸)と猫のダブル縁起物 ※その後、「熊と蛸」はどこで見たのか失念 検索してみたがみつからない 1990年代に訪問した時には見かけなかった たこを含めてもサイズは小振り 高さ118mm×横50mm×奥行63mm |
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底面に銘が入る 残念ながら欠けてしまった |
鯛猫 | |||
右手で上から、左手で下から鯛を抱える | 蛸抱きと同じように黒く短い尻尾 | ||
鯛を咥えてはいない | 背面は鯛以外彩色なし | ||
東北の堤や花巻によく見られる鯛抱き 鯛を咥えたような構図はよくあるが この猫は両手で抱えている これも1990年代中頃の作品 高さ72mm×横117mm×奥行60mm |
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下から鯛を抱える様子がわかる | |||
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古作鯛猫 | |
鯛を両手で抱えている | 黒く短い尻尾と背中に1箇所黒い斑 |
目やヒゲの描き方に特徴がある | 背面は彩色なし |
以前入手して「堤?」としていたが、 今回相良人形であることが判明した 現在制作されている鯛猫と型も同じ ヒゲの描き方は鞠抱き猫その3と同じである 目の描き方から平田(1996)の36番の招き猫と 同じ制作者ではないかと思われる 現在制作されている作品より左前足が鮮明である 高さ72mm×横112mm×奥行66mm |
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接合部分がよくわかる | |
鈴木(1888 覆刻)より 鈴木常雄の「鯛車 猫」は1977年の発行だが そこに描かれている鯛猫は明らかに上の古作と同じものである 左前足で鯛を支えている様子もはっきり確認できる 斑の模様などの位置に若干の違いが見られる |
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鈴木常雄による相良の古作鯛猫スケッチ |
鞠抱き猫その1 | |
少し上向き加減 | 黒く短い尻尾 |
鞠を右前足で押さえている | 背面の彩色はない |
よく見かける鞠抱き猫とは異なる型で あまり見かけた記憶がない 鞠抱きというよりは右手を鞠の上に乗せている 面相は最近の招き猫の特徴を備えている 赤い首玉に結び目はない 鞠はカラフル 高さ108mm×横87mm×奥行60mm |
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底面には銘が入る |
このタイプの鞠猫は古くから制作され、現在も作られている。手元に作品が(みつから)ないので比較画像を掲載できないが、時代あるいは制作者ごとに彩色が異なりおもしろい。
鞠抱き猫その2 | 二点共に名古屋のNさん旧所蔵品 |
黄色の目に黒い瞳 | 黒くて長い尻尾 |
底面に管理用の文字 | 背面の彩色なし |
赤に蘇芳が使われていることから 幕末から明治初期の作ではないかとのこと 耳の中の彩色はない 赤い首玉に二色の前垂れ、桜か梅の模様は付く 前垂れには鈴が複数付く 背面の彩色はない 鞠には相良人形によく使われた桜の模様が入る |
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蘇芳の赤い鞠 | |
鞠抱き猫その3 | |
尻尾の先が黒い | |
首玉には金の鈴が付く | 背面は首玉以外彩色なし |
サイズは不詳だがその2の鞠猫と同じ型と思われる 現在でもこの鞠猫は制作されている 前垂れや鞠の模様は制作者によって異なる 面相から五代目相良清一か六代目相良チエの作では ないかとのこと 目は墨のみで描かれ彩色はない 黒い耳の中は赤で彩色 ヒゲは一箇所から放射状に出る 赤い首玉には金の鈴が3つ付く 前垂れは薄い青緑一色で塗られ縁取りが付く 尻尾は長く先端のみ黒 背中と左後足に黒い斑 前足は彩色されていない 鞠には麻柄のような模様が入る |
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銘は入っていない | |
山形県立博物館の梅津宮雄コレクションに 鞠猫の古作が2点掲載されている(資料番号:6H003876) (資料番号:6H005402) 型は同じだがハチワレで首玉や前垂れの彩色もカラフルである 招き猫も1点あった 梅津宮雄コレクション 招き猫(資料番号:6H003888) |
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古作相良人形の猫 いずれも、平田(1996)より |
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いずれの鞠猫とも面相が異なる | 現在の招き猫と同じ型だが面相は上の古作鯛猫に似る |
このタイプの鞠猫も所有していたと思ったがみつからない
相良人形の年賀切手 | |
相良人形年賀切手 昭和57年(1982)用 羽衣狆 |
山形県ふるさと工芸品 置賜総合支庁産業経済企画課制作 「相良人形」 (動画あり)
山形大学附属博物館報7号(中沢勝麿、1980 山形大学附属博物館)
山形県立博物館研究報告no.3 山形県の土人形(板垣英夫、1975 山形県立博物館) ねこれくと内リンク
山形県立博物館研究報告no.29 米沢の土人形(秋葉正任、2011 山形県立博物館) ねこれくと内リンク
技あり米沢 相良人形制作元
日本土人形紀行 vol.7 (日本土人形資料館パンフレット) 頑張れ東北!東北の土人形特別展 リンクが切れている場合はこちら
参考文献
相良家と相良人形(塩野徳五郎他、1974 伏偶舎)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
山形大学附属博物館報7号(中沢勝麿、1980 山形大学附属博物館)
山形県立博物館研究報告no.3 (板垣英夫、1975 山形県立博物館)
山形県立博物館研究報告no.29 (秋葉正任、2011 山形県立博物館)
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
郷土玩具職人ばなし(阪本一也、1997 婦女界出版社)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
全国郷土玩具ガイド1(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)