佐原張り子    

佐原(さわら)張り子
 種類:紙張り子
 制作地:千葉県香取市佐原 (旧佐原市佐原)
 現制作者:廃絶
 

鎌田清太郎  初代 明治13年−昭和29年 1880−1954
鎌田 某 二代目        −昭和22年     −1947
鎌田芳郎 三代目 昭和10年−令和 3年 1935−2021
       




 漁師の網元であった鎌田家で人力車の車夫をしていた初代鎌田清太郎が車夫の傍ら明治末期に香取神社の境内でダルマやゴム動力の豆車を売り始めたことから佐原張り子は始まった。「三浦屋」としては1918年(大正7年)に創業した。
 二代目鎌田某も張り子を貼ったが、戦地で体調を崩し、昭和22年(1947)に亡くなった。さらに初代鎌田清太郎が昭和29年(1954)に亡くなり、孫の鎌田芳郎が19才で三代目を継いだ。実質的には鎌田芳郎が二代目のような位置づけになっている。

 佐原張子は実に多くの作品が鎌田芳朗によって制作された。思いつくとすぐ石膏型を作ってアイデアを作品にしたという。したがって作品も多岐にわたり全体像を把握するのは難しい。これは招き猫あるいは猫の張り子の種類に関しても同じで問うこと自体あまり意味がなさそうだ。さらに自由奔放な彩色により、あまり細かい彩色の様子を示しても意味がないかもしれない。基本は白猫であるが、黒や金、黄、赤など多彩である。白猫の場合は斑柄が多い。ボサボサにした筆で大胆に斑柄を入れることが多い。
 今回アップした2種類の招き猫もそのような中のひとつと捉えていただきたい。
 佐原張り子は千葉県の指定伝統工芸品に指定され、「佐原張子」も最近になって商標登録された。

 平成11年に(1999)には年賀切手に餅つきうさぎが採用された。しばらくはうさぎづくりに追われたという。これは玉乗兔の山形張り子も同様であった。
 残念ながら鎌田芳郎が2021年に亡くなり佐原張り子の歴史は閉じられたが、現在は内弟子の大谷未起生により房総張り子として継承されている。

 
佐原張り子は並べられて展示販売されている以外に
袋に入れられて店頭に並んでいることも多い

なおラベルには佐原市寺宿とあるのは旧町名か?
工房の前の道は今でも寺宿通りと呼ばれている
付近には寺宿会館や寺宿区山車蔵などもある
その後佐原市佐原、
2006年には合併で香取市佐原となっている
番地はイ1978のままである
佐原張り子のラベル
少し大型の招き猫  
黒の斑 左手挙げ
安定が悪いので浮いてしまう 立派な太い尻尾
黒の斑がある白猫
赤の首玉に金の鈴
太い尻尾
張り子でこれだけ立派な尻尾は珍しい
金の目に黒の瞳

高さ163mm×横130mm×奥行97mm
底に凹凸があるため傾きやすい
佐原張り子の招き猫大と小
往年の宮内フサさんにも負けない筆づかい  
平成11年(1999)の年賀切手に採用された
佐原張り子の餅つきうさぎ

右は山形張り子の玉乗兔

小型の招き猫  
青い目が印象的 黄色の斑
右手挙げ 手は身体と一体化
黄色の斑の白猫
右手挙げ
青い目に黒の瞳
赤い首玉に金の鈴
鼻、口、耳、爪は赤で彩色

高さ82mm×横53mm×奥行45mm
底の彩色の時の穴  


追加の2体 
下地が無彩色の
猫は比較的
珍しいのでは

黒猫は
上の小型白猫と
ほぼ同じ大きさ
小型の黒猫
 
凜々しい感じの顔つき ひしゃげた体型
自由な造形が見て取れる 左手挙げだが身体と一体化
 
左手挙げの黒猫
青い目に黒の瞳
赤い首玉に金の鈴
爪や鼻などは赤で描かれる
白いひげ
サイズは小型の白猫とほぼ同じ
高さ76mm×横55mm×奥行44mm
彩色の際の串の穴
下地なしの招き猫  
微笑んでいるような目 上向きの顔
まっすぐ立たないので硬貨で支えている 右手挙げ

下地は張り子紙のまま無彩色
右手挙げ
黄色い首玉に白い斑が2箇所
微笑んでいるような目をしている
鼻、口、耳、爪は赤で彩色

高さ93mm×横84mm×奥行66mm


佐原張り子で下地がないのは
画像が多く掲載されている中村(2019)で探したが
2点しかみつからなかった
張り子紙のままの猫は珍しいのかもしれない
また丸目の張り子が多い中で
微笑んでいるような目を細めている猫もあまり多くない
1993年の日付が入っているので
佐原の店舗で購入したものと思われる
 下地なしなので穴はない  
丸目の招き猫に比べて
ひじょうに穏やかな顔つきをしている


今はどうなっているのだろうか?  
主を失った三浦屋は
どうなっているのだろうか?
ストリートビューのもっとも新しいものが
2019年なので詳細はわからない
しかし同住所には
新しく設立された
旅行代理店の名が見られる

「佐原張子保存会」も存在したようだし、
甥が手伝いもしたようなので
復活することを願ってやまない

いずれもストリートビュー2019年より
年季の入った看板
店内で招く招き猫


 三浦屋は1回しか訪問したことがない(はず)。それもまだ20世紀のころ。水郷に行ったついでか、三浦屋に行ったついでに水郷に行ったのかは定かではない。たぶん上の佐原市寺宿のラベルのある招き猫はそのときに購入したものと思われる。工房もまだ古い時代であった(はず)。伊能忠敬記念館にも行った。いろいろ思い出していくと複数回行ったような気もしてくる。店舗の外観もフィルムカメラで撮影した(ような気がする)。見つかったら追加でアップする。そういえば房総の村でもお会いした(ような気がする)。すでにかなり前のことなので記憶も曖昧になってしまっている。
 もう少し気候がよくなったら散策に行ってみたい。


 我が家にある佐原張り子を探してみたら2体しかなかった。もう少しあったと思ったのだが。どこかに隠れているかもしれない。いずれもかなり前の作品である。小型の方はキトンブルーのような青い瞳で気に入っている。この目の色はあまり見かけない。
 大きい方は今回撮影するまで袋に入ったまま飾ってあった。なぜかというと安定が悪いのですぐひっくり返ってしまうので袋に入ったまま他の猫に寄り添っていたからである。上の画像でも浮いているのがわかる。
 いずれにしろまだ入手できる可能性が高いのでいくつか手に入れておきたい。
 ※その後2体みつかったので画像を追加した




    クリエイティブなヒト 佐原張子の作り手・鎌田芳郎さん(前後編)

    チガテレ+プラス 佐原張り子遺作展
    佐原張子遺作展  YouTube



参考文献
房総の郷土玩具(石井車偶庵・相場野歩、1976 土筆社)
「房総葛篭」(鈴木常雄、1938)
郷土玩具図説第一巻(鈴木常雄、1980覆刻 村田書店)
佐原のピカソ・張子屋カマタさん(中村浩訳、2019 社会評論社)
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
郷土玩具1 紙(牧野玩太郎・福田年行編著、1971 読売新聞社)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)
郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)