多摩張り子 根岸家   暫定版

多摩張り子 根岸家
 種類:紙張り子
 制作地:東京都西多摩郡瑞穂町殿ヶ谷
 現制作者:根岸利夫・根岸正彦
 

 現在制作されている多摩張り子の中でも独特の型と彩色で一見して根岸家の作品とわかる。初代と二代目は同じ殿ヶ谷の山崎百之助からダルマ制作を習った。その山ア百之助は戦後製作をやめてしまった。
 現在は四代目の根岸正彦が型を含めて精力的に制作している。

       
初代  根岸幸次郎    
二代 根岸正吉 1899?−  
三代 根岸利夫 1930−2023 昭和5年−令和5年
四代 根岸正彦    
       


 文芸誌「園」を制作している方のへの投稿で根岸利夫さんに関しての記事を見つけた。かつて取材した縁のようだ。とりあえず確認できてから上記制作者欄に記入する予定。                 江原茗一 14.いろいろな愛
      ※残念ながらネットプリントサービスは終了

 その後、2024年の深大寺だるま市で確認したところ2023年2月3日に亡くなられたとのことだった。

 現在の根岸利夫(三代目)と根岸正彦(四代目)は根岸幸次郎・正吉親子のあとを継いで張り子制作をおこなっている。根岸家はいわゆる友さん(萩原友吉)の系統にあたる。友さんの何人かいる弟子の一人である山ア平五郎の甥にあたる殿ヶ谷の山ア百之助から張り子づくりを学んだ。山ア百之助は山ア平五郎の弟にあたる山ア国五郎の子であるが山ア百之助自身は戦後製作をやめてしまった。根岸家およびやはり百之助から制作を学んだ弟の山ア鳥之助の家系は現在も制作を続けている。

 根岸家の招き猫は冒頭に書いたように現在制作されている多摩張り子の中でも独特の型と彩色で一見して根岸家の猫とわかる。飄々とした風貌の招き猫で何となくほのぼのした感がある。型はかなり痛んでしまったようで現在の四代目が新しく型を作り直したり、新型を制作したりして種類も増えている。基本的には干支ものは作らず招き猫単独や達磨や姫(おかめ)達磨を抱えたものがある。最近は横座りタイプもある。青い岩絵の具を使ったブルーの目も四代目のアイデアである。白猫が主であるが黒猫や金猫もある。以前岩絵の具の青で彩色された猫を見たことがあったがその後見かけない。
 上記のように根岸利夫さんは最近亡くなられてしまったが、四代目を継いでいる根岸正彦さんを利夫さんの奥様が九十才を超えた今も手伝ってだるま市に出ている。

村上本次郎「多摩達磨の元祖」おもちゃ49・50号(全国郷土玩具友の会 1963)を元に編集
 友さんから山ア平五郎の系列のみ
         
                             |・・・・・会田亀次郎(初代)・・・会田光雄(二代)・・・会田雅志(三代) (猫)
                            |
  萩原友吉・・・山ア平五郎・・・・山ア定右衛門(二代)・・・山ア貞三(三代)・・・山ア平八(四代) (猫)
  (勝楽寺)    |
             |
           山ア国五郎(弟)・・・山ア百之助(製作休止)
                        |
                        |・・・根岸幸次郎(初代)・・・根岸正吉(二代)・・・根岸利夫(三代)・・・根岸正彦(当代) (猫)
                        |
                         山ア鳥之助(初代)・・・山ア武一(二代)・・・山ア美代子(三代) (猫)
                              (弟)        トキ

            ※山ア国五郎:山ア平五郎の弟  山ア鳥之介:山ア国五郎の子で山ア百之助の弟

 この系統を見ていると山ア平五郎兄弟がいなければ現在の多摩張り子の招き猫はほとんどなかったかもしれない。下の武井(1930)と合わせてみていただきたい。

 武井(1930)より  2系列が記されている
 
  山口村勝楽寺 友さん・・・・・・三ヶ島   比留間他1軒(すでに当時)達磨廃絶
                   |
                    ・・・・殿ヶ谷・・・・・山ア平五郎(当主)
                   | 
                    ・・・・村山・岸 ・・・・・小川由五郎(当主)
                         |
                          ・・・・・ 砂川 村野徳次郎・・・・村野喜市郎(当主)
                                            |
                                             ・・・・小川 椚三五右衛門(喜市郎の妹の嫁ぎ先)
                                                    椚仁三郎

  村山・岸・・・・・・・ 伊勢屋荒田・・・・・・荒田徳太郎(当主)
                  |    |
                  |     ・・・・・・箱根ヶ崎・・・・内野兼太焉i当主)
                  |    |
                  |     ・・・・・・石畑             ※制作者氏名なし
                   ・・・・・・・・三ツ木 鶴屋鐡五郎(伊勢屋の弟)
                                 |
                                 |・・・・・四之宮(永島) 鐡五郎の娘の嫁ぎ先
                                 |
                                  ・・・・・・厚木(酒井)

  八王子・・・・・・・武蔵屋竹次郎(当主)        ※武蔵屋は師につかなかった
                                                   当主:当時の当主


 根岸家で制作される代表的な猫は自然な頭の大きさで身体との全体的なバランスがとれている。古い型は右手挙げが基本になっているのだろうか。所蔵している招き猫を調べてみたが、新しく起こした型は別として、古いタイプの招き猫は大きめのものに関してはすべて達磨を抱えていた。大型中型で招き猫単独の張り子は手元にはなく、猫単独は小型のみであった。目のまわりには朱のぼかしが入っているが、会田家や内野家の猫のような手足の輪郭を表す線はない。

多摩張り子 根岸家  
根岸家に古くからある代表的なタイプの招き猫大小(左)

姫ダルマ抱きの招き猫はおそらく根岸家では
もっとも大きな招き猫と思われる
前に座っているのは同じ形の
最も小さいと思われる招き猫
その後、新しい型も起こされているので
もう少し小さいものもあるかもしれない
どちらも1990年代のもので鼻がない
朱のぼかしが入るのは目と耳のみ



招き猫中(下)
いずれも色違いで同じサイズ
この新しい作になると朱のぼかしが目と耳以外に
鼻、あご、つま先に入るようになる
抱いている達磨の描き方は微妙に異なる

 


姫ダルマ抱き招き猫 大
姫だるまを抱く 赤い首玉と前垂れ
左手挙げ ちょろっと出た短い尻尾


1998年深大寺だるま市で購入
最も大きいと思われる招き猫
だるま市の画像を何枚か見たが
この猫がいちばん大きいようだ
姫だるまを抱く
目と耳には朱のぼかしが入るが鼻はない

高さ345mm×横200mm×奥行185mm




ダルマ抱き招き猫 中
右手で達磨を抱える 左手挙げ
赤い首玉に同色の前垂れ 尻尾にも朱のぼかしが入る
ダルマ抱き招き猫(中)
この猫は2023年購入で
最近の作、鼻(の穴)がある


高さ192mm×横110mm×奥行105mm

ブルーの瞳と鼻とあごに朱のぼかし
あごには「寿」の文字


ダルマ抱き招き猫(中)金 初期タイプ
瞳は描かれていない 左手挙げ
柄はすべて白で縁取りもない 尻尾がない
1998年に骨董市で購入した記録が残っている
根岸さんに見ていただいたところ、
「私(四代目)が作ったものです」と確認できた
初期の金バージョンのようで
面相も古いタイプと同じ

現在は黒で描かれている部分が
すべて白で描かれている
目も白のままで墨を入れられるように
なっているのか?
金の下地の剥落防止の赤は塗られていない
下地の赤がない


                                           

招き猫 小  
黒の招き猫二体 2006年製(左)と1997年製(右) 右の猫は黒の下地が梨地のようになっている
赤い首玉の前垂れ 左はなぜか太い尻尾

この二体は型が異なるのだろうか?
右の古い方には鼻(の穴)が描かれていない
あごの下の柄もない

右の猫は梨地仕上げのような細かい縮緬皺が全体にある
劣化ではなくおもしろい仕上げでこれ以外見たことがない



高さ132mm×横85mm×奥行78mm


高さ127mm×横80mm×奥行73mm



下地の赤が見えている  


招き猫 小  
小型の招き猫で白(中央)と金(右)は同じ型だが
黒(左)の左手挙げは少し大きめで太目の体型
招き猫(小)三体  
彩色の仕方はほとんど変わらない 金は柄の縁取りが白になる
いずれも右手挙げ 白は大型と同じ彩色だが、金は黒い柄に白の縁取り

どちらも1990年代の作で顔の描き方は現在のものと異なり
鼻のぼかしやあご下の柄もない(金のあご下は反射)
赤い首玉に同色の前垂れ
丸目で白は目に朱のぼかしが入る


高さ120mm×横72mm×奥行62mm


高さ120mm×横73mm×奥行60mm

金は下地に赤を塗る  


 四代目が型をおこした猫に横座りの猫がある。大きさも各種あり、縞(トラ)柄もある。

横座り招き猫
座り招き猫 赤い首玉に前垂れなし 中央の柄は尻尾か?
右手挙げ

これは四代目による新しい型で
彩色自体は古い作品に準じている
赤い首玉に結び目はない
最近の作品は朱のぼかしが入る箇所が多い
かなり大きな作品もある

高さ103mm×横82mm×奥行70mm

右下の出っ張り部分はやはり尻尾か


虎柄の招き猫    
虎柄の猫を買っていた
型は古い型で彩色で虎柄となっている
耳のあたりの黒は
縞の続きのようになっている
目は岩絵の具の青

現物がみつからないので
当時の画像を使用している
みつかったら
5方向の画像を追加する予定
ブルーの目が目立つ 縞以外は通常版と同じ  


 青猫の招き猫を2024年の深大寺だるま市で入手したので追加で掲載しておく。

青い招き猫 小型
基本的な彩色は白猫と同じ 青地に金彩が映える
右手挙げ 斑も尻尾も金彩
2024年の深大寺だるま市での購入品
これ一体だったような気がする
右手挙げで他の小型と同じ型と思われる
目は金に黒い瞳
赤い首玉と前垂れは除荷の猫と同じ
斑、尻尾、手などは金で描かれている
ぼかしは入らない

高さ121mm×横69mm×奥行60mm


深大寺だるま市に出店中の根岸家  
2001年の深大寺だるま市で
ブルーはこの年に出たのかもしれない 四代目まだ若い  
2005年の深大寺だるま市で
根岸さん一家の店 ブルーの招き猫があった (コーヒー缶と大きさ比較)  
 2006年(左)と2007年(右)で
三代目根岸利夫さん
2006年 2007年  
2023年の深大寺だるま市で
根岸利夫さんのお子さんの四代目 花巻のかまど猫のような柄の猫が多い  
 
小型もよく見るといろいろあるようだ  
初めて見る屋号
「やまこ」
子(こ)は初代の「こうじろう」からきているようだ
2024年の圓福寺初観音で
2024年深大寺だるま市

一体だけ目に朱のぼかしの
入っていない招き猫があった
ずいぶん雰囲気が変わる
これはこれでまたキュートである
岐阜のおじさん専用干支達磨  目にぼかしが入っていない  
 
根岸利夫さんの奥様は九十才を優に超えているが元気に市に立つ   


多摩だるま    根岸家
瑞穂町郷土資料館所蔵


  
                                           




    瑞穂図書館/温故知新 瑞穂町を旅する地域資料 「多摩だるま」

    「多摩のあゆみ」 公益財団法人 たましん地域文化財団
               第8号(1977 昭和52) 「多摩のだるま」 pp.59−61 有川滋
               第35号(1984 昭和59)「ダルマづくりとダルマ市」山上茂樹翁ききがきノート 第四十六話
               第69号「多摩だるま」 pp.58−65 大嶋一人

    多摩張子1 縁起の章 (gannsyuuさんのブログ 2013.9−2014.3までの短期間しかブログはアップされていない。
                    私より年齢が上の女性郷土玩具蒐集家の方とと思われる 多摩張り子に関してはその7まであり)




参考文献
招き猫尽くし (荒川千尋・板東寛司、1999 私家版)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
おもちゃ第49・50号合併号(村上本次郎、1963 全国郷土玩具友の会)
瑞穂町史(瑞穂町史編纂委員会、1974 瑞穂町役場) pp.887−892
多摩の伝統技芸1(下島彬、1990 中央大学出版部)
ねこ(木村喜久夫、1958 法政大学出版局)
縁起だるま 高崎だるまとその商圏(峯岸勘次、2001 上毛新聞社)
越谷の張り子玩具(平成12年度越谷市文化財講習会資料)  越谷の張り子玩具(PDF)
郷土玩具1 紙(牧野玩太郎・福田年行編著、1971 読売新聞社)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
招き猫博覧会(荒川千尋・板東寛二、2001 白石書店)