藤枝市郷土博物館 「千客万来!招き猫」を訪ねて
行って来ました。藤枝市郷土博物館。10月8日(日)ちょっと都内で道草をしたのが運のつきで御殿場付近にできたアウトレットショップへ行く人たちと事故渋滞に巻き込まれ、入館16時までという時間との格闘となってしまいました。ようやく蓮華寺池公園についたのが16時ちょっと前で滑り込みで入館しました。
藤枝市郷土博物館ではおよそ2ヶ月ほどの開催期間で入れ替わりの企画展をおこなっており、今回も正式には第47回企画展「千客万来!招き猫」となるのだそうです。過去にも2年ほど前に第36回企画展「土人形と郷土玩具」という展示をおこなっています。
さて、目的の展示場に行くと300体ほどの新旧取り混ぜた招き猫の列。植山利彦氏の所有物が多いということでした。じっくり見ていくと現在入手可能なものでも先代の作であったりとなかなか楽しめました。話には聞いていましたが姫路張り子のヒゲが筆描きの招き猫も初めて目にしましたし、現在とは目の描き方が異なる中山土人形、互楽堂の角〆(カクシメ)招き猫などなかなか収穫が多かったです。ただパンフレットとは異なる表示名のものがあるのが気になりました。
藤枝練人形の招き猫(博物館による復元品) |
しかし何といっても最大の見ものは目玉の「藤枝練人形」の資料でしょう。窓口でくれるパンフレットによれば平成6年に「藤枝だるま」店の土蔵の中から茶箱に入った木型(雌型)が多数発見されたそうです。明治の初めころは盛んに生産されていたようですが、明治31年(1898)頃を境に藤枝張り子だるまの製造が中心となって今に至り、練人形は廃絶し忘れ去られていったということです。ポスターや看板にある102年ぶりに復活とあるのはこの明治31年から数えてということのようです。
発見された招き猫は藤枝オリジナルの作品でなく他の土人形をもとに型を起こしたようで、もとになった土人形の招き猫とそれから松ヤニで型を取った雌型が展示されていました。発見された原型と雌型のなかで最も大きな大猫は熱田の土人形ということです。熱田の猫はなかなか紙面に出ることがありませんが「ねこ」(1958木村喜久弥 新装版あり)に掲載されていたのを思い出し比べてみると不鮮明な写真ではありますが確かに鼻の横の不思議な黒点も確認できそっくりでした。ポスターをごらんになった方は手前にある耳と左手を補修された招き猫に気付かれたと思います。やけに雑な修復に見えるこの猫が藤枝練人形の原型(藤枝練人形ではない)です。一見、雑な修復に見えるのは雌型をとるために耳と左手を削り取ったのが原因で壊れているのではないのです。耳と手は「大猫」から「けし猫」まですべて別に木型を作り、型抜きしてから取り付けられていたようです。小型の一文人形系の招き猫の木型(こちらは本当に木彫)も展示してありますがこちらは左手のみ別型で耳は付いています。
小猫原型 耳と手は型取りのため、削り取られている。 |
大猫原型 和紙で補強されている。 |
大猫原型 左の物とは別型。 |
展示されていた資料はなかなか豊富です。招き猫の原型になった耳と左手のない土人形(大猫、中猫、小猫、けし猫)およびそれから作られた雌型、木彫の一文人形系木型、雌型から作ったボディ・左手・耳のパーツ、そして博物館学芸員による復元品などなど。招き猫に関しての手持ちの材料はすべて公開したという感じです。
中猫雌型 松ヤニを流し込んで作ってある。白い部分は剥離材の滑石の粉末。 |
大猫雌型 右の木片は耳の木型 |
招き猫以外の藤枝練人形の原型や雌型も展示してありました。復元品は正直なところあまりよいできという感じはしませんでした。人形作りに関しては学芸員は素人ですからそこは仕方がないところです。できれば練り物の専門家による復元が待たれるところです。そしてできることなら藤枝練人形の復活を!。最もそれにも問題が一つあります。これだけ製作に関わった材料が出てきたのに「現物がない!」とのこと。土人形と同じような彩色をおこなってきたことは想像できますが何しろ人形に実物が見つかっていないとのこと。廃絶して100年たっていれば練り物だけに虫食いなどで保存状態はあまり期待できないものの現存するはず。大阪練り物のように研究が進んで、他の人形と誤認されていたものや不明人形として扱われていたものの中から藤枝練り物が姿を少しずつ現してくれることを願っています。
その反面、かつて志田天神の調査のため、かなり徹底的に近辺の地域は調査され、天神以外はほとんど練り物が見つかっていないのは気にかかるところです。
型抜きをして取り出した状態 前にあるのは耳と左手 |
復元の様子 中央は胡粉塗りをした状態。原型には鈴を通した針金の後らしき跡がある。 |
ところで体験室で招き猫の製作体験が15時までならできました。藤枝練人形の招き猫(小猫)と招きではありませんが一文人形系の座り小猫をそれぞれ200円と50円の実費で型抜き、接着、彩色まで体験できました。粘土は紙粘土を使っていますが貴重な猫を自分の物にできるチャンスです。当日は展示を見るのがやっとの状態だったのですが恨めしそうに見ながら質問をしていると、遠くから来たので気の毒に思ったのか、学芸員(?)の方のご厚意で型抜きしてある物をそれぞれ1体ずついただいてしまいました。ありがとうございました。
体験教室 手前の猫は私の作品です。奥の赤猫は同時に 発見された一文人形の小猫。 |
博物館のある蓮華寺公園。フジやハスの花の季節は散策によい。 |
おまけ
結局、翌週の10月14日(土)にもまた行ってしまいました。上の体験教室の作品はその時のものです。1日使ってしまいましたが、招き猫4000匹の清水市のYさんや三重県のS夫妻にも会え、一緒に体験をできたので、「よかったよかった」と自分で納得しています。
この展示は2000年10月25日で終了しています。
藤枝練り人形に関しては「藤枝市郷土博物館調査報告書 第1集 藤枝の練人形」(800円)に詳しく掲載されています。