藤枝張り子
　種類：紙張り子
　制作地：静岡県藤枝市
　現制作者：長橋秀明　藤枝だるま店　閉業（廃業）

　ごく最近まで制作されていた藤枝張り子の達磨は八雲達磨、かぼちゃ達磨、耳付き達磨など多くの達磨の張り子が知られおり、張り子面なども制作していた。
藤枝張り子には静岡張り子（沢屋）と共通点が多いという。創始の年代は明確ではないが３代目作太郎の時代ではないかと推測されている。
　初代、二代目は練り人形を制作していたが、明治半ばに相次いで亡くなったため玩具職人として修行に出ていた内田作太郎が急遽家督を継ぎ３代目として練り人形や張り子達磨や張り子人形を制作販売していたと見られている。作太郎が修行に出たのは静岡の沢屋ではないかといわれ張り子制作の技術はあったが練人形の制作には慣れていなかったため内田屋の主力制作は明治３０年代に張り子に移行していった。
　作太郎による達磨の型起こしにより新しい型も生まれた。また張り子面も制作された。さらに、小泉八雲が焼津に避暑で滞在した時の出来事を書いた「乙吉の達磨」で作太郎の藤枝達磨が描かれたことから「八雲達磨」や「乙吉の達磨」と呼ばれさらに知られるようになった。
　木型の制作は四代目�ﾙ治の半ばころまで手張り型抜きで制作されていた。かぼちゃ達磨や耳付き達磨などは四代目の作である。しかしやがて成形品仕上げの量産化に移っていった。張り子だるまの制作は五代目長橋秀明に引き継がれた。秀明は達磨の彩色体験などのワークショップも開き、張り子達磨の普及にも力を入れた。しかし長橋秀明が病で倒れ、後継者もいないため、張り子制作の藤枝だるま店は廃業した。最近訪問した方によれば現在は工房（店舗）もないという。
　　　　　　　　　　廃業に関しての確認記事　（雪だるまの会例会報告より）
　　　　　　　　　　廃業に関しての確認記事　藤枝市郷土館・文学館　体験学習年間予定2024年

　藤枝張り子はほぼ達磨生産を主力にしていたが、初期には張り子人形も制作していた。今回紹介する招き猫は練り人形の型が発見された後、岐阜のＮさんが制作依頼した作品で、その後商品化はされていないと思われる。したがってこの頂き物は試作段階の製品であった。

発見された練人形の型を基に覆刻された藤枝張り子の招き猫
左手上げ	黒の斑点に淡いぼかしが入る
ひげはない	尻尾も立体的
手張り型抜きで 練り人形同様に耳と左手は後付け 左手挙げの黒斑の猫 赤い首玉に緑の鈴がつく 首玉と鈴には金の縁取り 黄色の目に黒の瞳、 瞳の中に金色のキャッチアイ？ 尻尾もしっかり型にある サイズから２種類ある大猫のうち 最も大きい猫にあたる
高さ２２０mm×横１１０mm×奥行１２５mm
ひげはなし	紙の耳は後付け
緑の鈴が描かれている
赤に金の縁取りの首玉

　　　　　 　　　　　　　　　　　　　　　　　

藤枝練り物
　種類：練り物
　制作地：静岡県藤枝市
　現制作者：　　　　廃絶
　　制作者は上記の藤枝張り子を参照。

　　　　　（一部藤枝張り子と重複）
　藤枝ではは桐箪笥を製作しており桐材の集積地でもあった、藤枝ではかつて練り人形が制作されていた。制作をしていたのは内田屋で、制作開始の時代は明確でない。またどこで制作技術を習得したのかも不明である。藤枝張り子の達磨を主力としていた藤枝だるま店（内田屋）で１９９４年（平成６年）で土蔵の整理中に茶箱に入った練り物の型などが見つかった。その後、地元の藤枝市郷土博物館や雪だるまの会などによって調査研究がおこなわれ、２０００年（平成１２年）に同館で企画展示と研究紀要が出版された。

　藤枝だるまは制作されていた（型発見当時）が藤枝練り人形は明治半ばですでに制作されなくなり忘れ去られていた。制作開始時期ははっきりしないが初代内田七五郎（1813-1894）の時代で江戸末期であるという。どこで技術を習得したかは不明である。その後、二代目内田利吉（1844-1896）が引き継いだが相次いで二人が亡くなったため、修行中であった三代目内田作太郎（1873-1929）が三代目を継いだ。作太郎は静岡の沢屋で修行していた（明確ではない）ようで張り子制作の技術はもっていたが、練り物制作の技術はまだ未熟であったようだ。作太郎の代、明治３１年（１８９８）ころから張り子専業となり、藤枝練り人形は明治半ばにして廃絶してしまった。しかし型や原型は茶箱に入れて蔵に保管されていた。そのまま忘れ去られて蔵にあったため保存のいい状態で発見されるにいたった。なお、廃絶してからかなりの年数がたっており、練人形という虫害などに遭いやすい素材のため、実際の藤枝練人形は発見されていないようである。

　途中から張り子制作専業なった三代目以降、・�ﾙ治（1901-1981四代目目）、長橋秀明（1947-　五代目）と張り子づくりを継続したが、それも五代目の闘病により廃業となってしまった。

詳細は下記にある ＰＤＦファイルをご覧ください

招き猫木彫原型　　左は座り猫（一文人形）	招き猫木彫」原型　　一文人形系の木彫原型　　原型は3つあるようだ 左手は別に作っている
上の木型から起こした土型（座り猫）	木型から起こした土型（招き猫）
招き猫大猫の元になった土人形	別づくりの耳と左手は切り取られている
	招き猫の原型はパンフレットの画像を見ると 大猫は高さ２１６ｍｍと１７３ｍｍの２種類あったようだ さらに中猫（高さ１４４ｍｍ）、小猫（高さ１１０ｍｍ）、 けし（高さ９０ｍｍ）の５種類となる ※第４７回企画展　「千客万来！招き猫」藤枝縁人形１０２２年ぶりに復活 （藤枝市郷土博物館）のパンフレットを参照
招き猫中の原型の土人形
	熱田土人形はかなり早い段階で廃絶してしまったようである 岐阜のＮさんの調査によれば、 南区尾頭町には２軒の作者が確認できるという 鼻の横にある黒い柄が特徴なので、 どこかで展示や出品があればすぐわかると思われるが、 この会場での展示と書籍による画像以外は見たことがない
招き猫の中では最も小型の「けし」の原型　紀要では小とある
企画展パンフレットより招き猫に使われた原型 左から 大（高さ２１．６ｃｍ） 大（高さ１７．３ｃｍ） 中（高さ１４．４ｃｍ） けし（高さ９ｃｍ程） 小（高さ１１ｃｍ程）　　　と思われる 熱田土人形といわれている招き猫は 大小いろいろあったようだ 第４７回企画展（パンフレット）より
	（上）および（左） 招き猫、中猫の雌型 白い部分は剥離剤として使用された滑石の粉末
招き猫、小猫の雌型と木彫の原型	招き猫、小猫の雌型と木彫の原型（拡大）
	招き猫、小猫の原型（左） このサイズのみ木彫の原型が使われている
招き猫小猫の雌型	招き猫「けし」の雌型
招き猫、小猫の雌型	招き猫、小猫の雌型（拡大）
明治３１年作なので練り人形末期の雌型
	紀要によれば藤枝練人形の保管されていた 猫に関する資料は下記の通りである 原型のみ 座り猫１、招き猫３ 原型と雌型 招き猫小猫（木彫原型） 招き猫大猫Ａ１、大猫Ｂ１、中猫１、けし猫１ 雌型のみ 招き猫小２、小猫、けし猫 ※なお、招き猫大猫のＡとＢはサイズが２種類あるため、便宜上つけた

招き猫練人形の復元
	練り人形制作工程の説明 　桐塑詰め 　生地抜き 　胡粉がけ 　彩色 　　※生地抜きをした後、乾燥が入る
型にしょうふ糊と桐粉を混ぜた素地を詰めて抜く
桐塑詰め（素地を型に詰める）	生地抜き（型から抜く）合わせる　　猫本体と耳および左手は別に抜く
	残念ながら藤岡練人形の招き猫は発見されていないので 実際にどのような彩色であったかは不明である 復元品の彩色も原型がしっかり残っているのでそれを元にしたもの 試作品の張り子もそれに準じている
胡粉がけ（胡粉塗り）と彩色（色塗り）
	（左） 博物館による藤枝練り人形の招き猫復元品 左から大・中・小（右奥）、けし（右手前） （左下） 招き猫　大・中 実際にひげがあったのかどうかは不明だが、 原型の土人形にはひげの跡とような穴があるようにも見える （右下） 招き猫　中・小・けし 熱田土人形を原型としていない小猫には鼻の脇の黒斑がない
	鈴がついているのが最も小さい「けし」

招き猫以外の練り人形
稲荷の復元品と奥に鯛車が見える	稲荷の雌型
鯛車の雌型と木型原型　　菊のようなものは鯛車の車輪	馬乗り天神の天神雌型　その奥は馬の木彫原型

　なお、上記の藤枝練り物に関する画像はすべて２０００年に開催された企画展『千客万来！招き猫』による。
　パンフレットチラシなどは下記のＰＤＦファイルを参照されたい。

第４７回企画展（パンフレット）　全８ページ中の関係３ページ 　　　ＰＤＦファイルへ
第４７回企画展（ちらし）　　　ＰＤＦファイルへ	藤枝市郷土博物館紀要
	藤枝練り人形の情報は 極めて乏しく、ほとんどが 藤枝市郷土博物館紀要による （完売）
第３６回企画展（１９９８）（パンフレット） 関連ページのみ 　ＰＤＦファイルへ

２０００年に企画展で	右は木型を起こした座り猫
２０１２年６月　ストリートビューより	２０２２年９月　ストリートビューより　（すでに閉店している）

	藤枝練り物の元となった招き猫 熱田神宮の近くの 名古屋市南区尾頭町（おとうちょう）の 土偶であるが詳細は不明 すでに有坂が紹介した １９３０年時点で廃絶している
熱田の招き猫	有坂（１９３０）は下記より 有坂与太郎 著『おもちや葉奈志』その3 ,郷土玩具普及会,昭和5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1188989 (参照 2024-10-31)

参考文献
全国郷土玩具ガイド２（畑野栄三、１９９２　婦女界出版社）
藤枝市郷土博物館調査報告書第１集　藤枝の練り人形（２０００　藤枝郷土博物館）
藤枝郷土博物館の企画展「千客万来！招き猫」しおり（２０００　藤枝郷土博物館）
おもちや葉奈志その3（有坂与太�ｶ、１９３０　郷土玩具普及会）
日本郷土玩具東の部（武井武雄、１９３０　地平社書房）