三条人形
種類:土人形
制作地:新潟県三条市
現制作者:廃絶
参考文献にある郷土人形図譜第U期第1号(通巻第11号)三条人形・今町人形(2000 日本郷土人形研究会)が唯一のまとまった資料であると思われる。
三条人形は日本郷土玩具 東の部(1930 武井武雄)では約30年程前に廃絶したとの記述がある。俵(1978)にも三条人形の名称は出てくるが解説はなされていない。
郷土人形図譜(2000)の調査によれば三条人形は三条市八幡町の八幡宮と泉薬寺の間あたりの場所、天神前通り付近で制作されていた。その八幡宮の近くで小林三六、野口某(3軒ある野口家のどこで制作されていたかは不明)、藤倉某(4軒ある藤倉家のどこで制作されていたかは不明)により明治時代の初期頃から作られていた。廃絶時期は日清戦争(1984−5、明治27−8年)物の人形があることからそれ以降と考えられている。また制作地の八幡町を分断するように八幡宮と泉薬寺の間に越後鉄道弥彦参宮線(現JR弥彦線)の敷設が1919年(大正8年)末に発表され、その工事着工が1922年(大正11年)であったので、この間に該当地域の居住者移転に伴い三条人形は廃絶したと考えている。制作者の移転先は不明で昭和初期にはすでにその手がかりとなるものは残されていなかったという。
※郷土人形図譜(2000)では泉楽寺となっているが泉薬寺の誤記と思われる。
現在の三条市八幡町 |
囲ってある付近が制作工房があった天神前通り付近にあたる |
Googleマップの地図で見ると、鉄道敷設による移転前の地図と比較しても天神前通りを中心に意外に当時の道は残っているようである。
三条人形は5cmから15cm程度のものが多いという。伏見系の人形を元にしていると考えられている。彩色は黄・黒・赤・茶・水色・群青・緑・金泥・真鍮粉などが使われている。
画像は明治期のものと思われる猫と太鼓。三条人形で確認されている動物の人形の種類は少ない。動物単体では猫、犬、鶏のみである。猫単独の人形はこの型だけではないかと思われる。
三条人形と似た人形に今町人形がある。両者の制作地は近く、作品も類似した作品が多い。この点に関して郷土人形図譜(2000)では伏見系の同じ型から型抜きしたり、三条人形と今町人形間で型抜きをした結果ではないかと考えている。また両者の判別において三条人形はほとんどの作品に金泥を使用し金砂を使っているものも多く、銀泥は使用していない。それに対し今町人形は銀泥を使用し金泥・金砂を使用していない。目の描き方にも違いを認めているが動物の目には当てはまらないのでここでは触れない。またすべてではないが底の形状は今町人形は底が平らにできているが、三条人形では内側に凹んだり平らに仕上げられていないものも見受けられるとある。今町人形は練り物や張り子なども制作したようで張り子には猫もあると伝えられている。しかし土人形の猫があるということは確認できていない。
今回扱った「猫と太鼓」の@は金泥を使用している。郷土人形図譜(2000)に掲載されている人形も金泥を使用し、金砂のようなものも見られる。しかしAとBは金泥は使用されずに銀泥が使用されている。これはどのように解釈すればよいのかわからない。
なおこの「猫と太鼓」の猫は目呂二の趣味の猫百種にも採用されている。 目呂二ミュージアム「三条人形}
太鼓は郷土人形の題材としてよく用いられている。太鼓が音で邪気を払うのかまだ調べていないので詳細は不明である。神楽などにも火焔太鼓は登場するので邪気払いのようなものがあると考えている。子どもと太鼓はよくある組み合わせだが、猫と組み合わせた例は他にあるのだろうか。
@猫と太鼓 | |
太鼓部分は剥離しているが火焔太鼓か? | 両方の前足で太鼓を押さえる |
黒く長い尻尾 | 頭の後ろにも黒い斑 |
猫が太鼓を抱く構図 三条人形で動物単体はこの猫以外に犬と鶏竹で少ない 黒い斑の入った白猫 黄色い目に黒い?瞳 鼻は黒で描かれている かすかに鼻の線の赤が認められる 緑の首玉に金の鈴、赤い前垂れの縁は金 尻尾は長く黒い 底部には彩色の際に串を刺した穴がある 高さ95mm×横107mm×奥行50mm |
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底面に1箇所穴 | |
鼻は黒く塗られている | 前垂れは赤単色で金の縁取り |
A猫と太鼓 | |
銀色の鈴を付ける | 赤い首玉 |
はっきりした記録は残していないが ネットオークションに今市人形として出品されていたと思われる 首玉の銀の模様から今町人形としたのだろうか? 白猫に黒い斑、頭には斑はない 耳の中は塗ってあったようにも見えるが 退色あるいは剥離したのか 赤い首玉に銀の模様(鈴?)、赤い前垂れの下の縁は群青 背面の彩色はかなり簡略化されている 太鼓の打面はよく保存されている ※画像の掲載許可を取っていません ご連絡いただければ許可申請いたします |
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底部に穴が一つある |
B猫と太鼓 | |
鼻の描き方が異なる | 首玉に銀色の鈴? |
首玉の模様(鈴?)は銀 | 左後ろ足の斑以外模様はない |
これもネットオークションに出品されたもの(らしい) 比較的彩色がよく保存されている 出品者は裏にいたずら書きがあるとかいている おそらく手足の輪郭線だろう 前面の手や尻尾にも同様の線がある 今まで輪郭線のある個体は見たことがないので やはり所有者が描いたものであろう 墨で書いてあるのでさほど違和感がない 黄色の丸目に黒い瞳 黒い斑のある白猫 頭に黒斑はなし 鼻の描き方が上の2点とは異なり赤い線描きになっている 赤い首玉に同じ赤い前垂れ 首玉には銀の模様(鈴?) 前垂れは二色の布で作られたようになっている 首玉には鈴が付く 前垂れの下の縁は群青 底部には彩色の際に串を刺した穴が2つある 郷土人形図譜(2000)に掲載されている猫はこれに近い ※画像の掲載許可を取っていません ご連絡いただければ許可申請いたします |
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C猫と太鼓 | |
平田(1996)より モノクロの小さな画像であるが 鼻の描き方がよくわかる 前垂れも二色になっているようである |
参考文献
郷土人形図譜第U期第1号(通巻第11号)三条人形・今町人形(2000 日本郷土人形研究会)
全国郷土玩具ガイド2(畑野栄三、1992 婦女界出版社)
おもちゃ通信200号(平田嘉一、1996 全国郷土玩具友の会近畿支部)
日本郷土玩具 東の部(武井武雄、1930 地平社書房)
「鯛車 猫」(鈴木常雄、1972 私家版)郷土玩具図説第七巻(鈴木常雄、1988覆刻 村田書店)
日本の土人形(俵有作、1978 文化出版局)